オードリー若林とフォアグラ
オードリーの若林さんと南海キャンディーズの山里さんの「たりないふたり」にスポットライトを当てたドラマ『だが、情熱はある』。
この第10話では、M-1グランプリで準優勝し、ようやく売れっ子になったあとの若林さんの葛藤が描かれています。
その象徴的な葛藤のシーンの一つが、ドラマ内で若林さんが、最高級のフォアグラが乗った和牛ステーキを食べて、番組の告知か何かをする場面です。
本来、テレビ的には、「美味しい!」と絶賛する必要があったのに、若林さんが、フォアグラとステーキを口に運んだあとに言ったコメントは、「美味しいですけど、人生には必要ないですね。美味しいけど、でも人生には、もっと大切なものがあると思います。」
ちょうどこの前の場面では、部屋で一人葛藤しながら、愛読書の岡本太郎の名言集である『壁を破る言葉』を開き、そのなかの「自分の好きな音を勝手に出す、出したい音を出したらいい」という一節に刺激を受けるシーンも描かれています。
だからこそ、自分の言いたいことを言ってみよう、と思ったのでしょう。
しかし、この言葉に、春日さんは少し戸惑ったリアクションをし、テレビマンはすぐにカットをかけると、「ここは笑いなしのシンプルなコメントで大丈夫ですんで」と言います。
若林さんは、一瞬抵抗しかけたあと、すぐに謝ると、求められているリアクションを取ります。
こんな風に、売れっ子になったあとも、テレビの世界の「面白い」が本当に面白いのかどうか、といった苦悩が、若林さんから垣間見える放送回となっています(対照的に春日さんは飄々と順応していきます)。
ところで、『だが、情熱はある』で描かれていた、このフォアグラを食べたあとに、「人生には必要ない」と一度はコメントした、というエピソードは実話なのでしょうか。
数年前からオードリーのラジオを聴いているのですが、このエピソードに似たような話は耳にしたことがありません。
製作陣は、若林さん本人にはそれほど多くは取材していないものの、ドラマ自体は相当細部まで緻密に調べてあるとオードリーの二人も驚いていたので、もしかしたら、このエピソードも取材のなかで知った実話なのかもしれません。
ただ、若林さんのエッセイ集『社会人大学人見知り学部卒業見込』のなかで、これまで自分が否定してきたことを笑顔で紹介しなければいけないことに葛藤し、「すごいけど、特に必要でもないですね」とコメントしたこともあったが、現場の雰囲気は歪み、カットもされた、ということが書かれています。
ただ、この文章では、これがフォアグラやステーキの話かどうか、といったことまでは書かれていません。
フォアグラに関して言えば、ちょっと前のラジオで若林さんが、雑誌の『東京カレンダー』を皮肉っていた場面で触れていました。
あんななんかさ、『東京カレンダー』みたいなさ、メシを食うところに行って高い牛肉とか……フォアグラとウニとかが乗った牛肉みたいなのを食っているやつは、バカだよな? よくあんなこと、楽しいと思えるよな?
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絶対に草野球の方が楽しいだろう? あんなカウンターで、なんかよく食っているけどさ。食っているかどうか、知らんけど。必ずカウンターの表紙だなと思って。
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で、美容室に髪を切りに行くと、『東京カレンダー』を置かれたりする時があるんだけど。「ナメんなよ?」って思って。絶対開かないからな。俺。
出典 :『オードリーのオールナイトニッポン』(2023年5月27日放送)
フォアグラが乗った牛肉、まさにドラマに出てきた食事そのものです。
エッセイの記載や、ラジオの若林さんの語りっぷりを聞くかぎりは、ドラマのような場面が実際にあっても全然不思議ではないのでしょう。